2025/07/14 22:55
シナリオ:精磁会社の岐路
SCENE 1:精磁会社・役員会議室
【登場人物】
* 深海墨之助(30代後半):陶工としての情熱と国際的な視野を持つ。
* 手塚亀之助(40歳前後):墨之助の竹馬の友。現実的で冷静な経営者。
* 川原忠次郎(30代前半):ウィーン万博から帰国したばかりの技術者。情熱的。
* その他の役員たち:数名
【場面設定】
精磁会社の役員会議室。重苦しい空気が漂っている。テーブルにはオランダ万博の報告書と、フランスの機械メーカーからの契約書が置かれている。
役員A:……というわけで、オランダでの万博は金賞という栄誉こそ賜りましたものの、実際の売れ行きは芳しくなく、現状では多額の負債を抱えることになります。
役員B:当初の予算を大幅に上回る、このフランスからの製陶機械の契約も、今一度見直すべきかと。
手塚:(冷静に)つまり、キャンセルの方向で検討したい、ということか。
沈黙が会議室に広がる。その中で、それまで黙って話を聞いていた川原忠次郎が、突然立ち上がった。
川原:お待ちください!
全員の視線が川原に集中する。
川原:今さらキャンセルなど、あってはならぬことです!
役員C:しかし川原殿、現状の収益では、とてもあの機械の費用を捻出できる状況では……。
川原:費用の問題ではございません! 我々が欧州で目の当たりにした、あの進んだ技術。あれこそが、日本の陶業が世界と肩を並べるために不可欠なのです!
墨之助:そうだ、忠次郎の言う通りだ。俺たちは世界と渡り合う器を作るために、精磁会社を立ち上げたんだ。
川原:その通りです、深海様! オランダでの金賞は、我々の技術が世界に通用することを証明した。にもかかわらず、ここで機械の発注を撤回するなど、これは一会社の汚名のみならず、帝国日本の恥辱となる! 我々の国際的な信用は地に落ちるでしょう!
川原の剣幕に、役員たちはたじろぐ。しかし、その顔には困惑の色が浮かんでいる。
手塚:……(静かに、しかし力強く)忠次郎、座りなさい。
川原は手塚の言葉に、ゆっくりと席に着く。まだ怒りと焦燥が顔に残っている。
手塚:皆の懸念も理解できる。しかし、ここで日本の、そして我々精磁会社の未来を諦めるわけにはいかない。
手塚は全員を見回し、深く息を吐いた。
手塚:この製陶機械は、精磁会社の、いや、有田焼の未来を切り拓くための**「投資」**だ。私が責任を持って、この機械を購入する。
役員たちがざわつく。
役員A:しかし、手塚社長! そのような多額の負債を、会社が単独で……。
手塚:その件については、私に考えがある。
手塚は、皆の不安そうな顔を見つめ、決意を固めたように言葉を続けた。
手塚:私は、国に奏上する。この機械を、国が買い上げ、我々精磁会社に貸与する形を取れないか、と。
全員が驚きの声を上げる。
墨之助:国が……か。
手塚:そうだ。これは、一企業の存亡だけでなく、日本の殖産興業に関わる問題だ。必ずや、大久保様や大隈様も、この機械の必要性を理解してくださるはずだ。
手塚の言葉には、確固たる信念が宿っていた。
このように、具体的なセリフを交えることで、登場人物の性格や彼らが抱える葛藤、そして当時の時代背景がより鮮明に伝わるかと思います。